分子モデルの種類:CPKから針金モデルまで

01_計算化学

みなさんは2次元で書かれたものを頭の中で立体的に思い描くことが得意でしょうか?私も含めて,多くの人にとっては立体構造を頭の中で理解することは困難だと思います.

ほとんどの化合物は3次元に広がっています.従って化合物の3次元構造を理解するために,立体化学を視覚化することはとても重要です.今回説明していく分子モデルとは,分子の構造を立体的に理解するために用いられるモデルになります.レゴのように手を動かしながら組み立てられる分子模型(例えば丸善のHgs模型です)もありますが,ここでは主にコンピュータ上で視覚化する方法について扱います.

なお立体化学構造を人間ではなく,コンピュータに理解しやすい形式で表現する方法については「ケモインフォマティクスで使われるファイル形式と化合物の描画方法」という記事にまとめています.
ケモインフォマティクスで使われるファイル形式と化合物の描画方法
ケモインフォマティクスにおいてコンピュータで化合物を扱うためには,コンピュータが理解しやすい形式で化合物情報を伝える必要があります. 通常我々が使っている構造式は,人間の眼には視覚的にわかりやすい表現方法ですが,コンピュータにとってはわかりにくいため,別の表現方法が必要になります...

分子モデルの種類

先ほど述べたように分子モデルの目的は,分子の3次元構造を理解することにあります.対象とする分子の大きさや,分子のどのような立体的な性質を理解したいかによって,最適な表現方法は変わってきます.そのため分子モデルもいくつかの種類が知られています.また同じモデルでも複数の呼び方があることもあり,ソフトによって呼び名が異なることもあるので注意が必要です.

分子モデル 英語 特徴
針金モデル wire-frame, line, Dreiding 原子間の結合を針金で表現したモデル
棒モデル capped sticks, stick 針金モデルに類似し,結合を円柱で表現したモデル
球棒モデル ball-and-stick 原子を小さな球に,結合を棒モデルと同じく円柱で表現したモデル
空間充填モデル(CPKモデル) space-filling 原子を原子半径を反映した球で表現したモデル
マンガモデル cartoon タンパク質の2次構造をマンガ風に表現したモデル

針金モデル(line)

最も古典的である針金モデルでは原子間の結合を針金で表現します.このモデルによって結合及び結合角が視覚化されます.原子の位置は針金の末端と分岐点によって表現されます.

視覚的なアピールは少ないモデルですが,例えば分子内の重要部位を他のモデルで表現し,末節を針金モデルで表現するといったことも行われます.

棒モデル(stick)

針金モデルを発展させたモデルで,結合を円柱で表現します.原子の位置は変わらず,円柱の末端と分岐点で表されます.視覚的には見やすくなっていますので,様々な分子モデリングソフトで使われています.用いられるカラーパレットは酸素が赤,窒素が青といった基本的な原子はほとんどのソフトで共通ですが,その他の原子では差異が見られます.


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このモデルでは結合距離や角度は現実的な値を表現しますし,分子内の官能基の位置関係を理解しやすいです.一方で大きさについての情報は欠けていますので,このモデルだけを眺めていると重大な勘違いも起こりやすいかもしれません.

球棒モデル(ball-and-stick)

棒モデルをさらに現実の分子に近づけたのが球棒モデルです.このモデルでは,原子を小さな球で,結合を棒モデルと同じく円柱で表します.多くの場合は球の色によって原子の種類を表現します.棒モデルと同じく結合角や結合距離は現実的な値を表現しますが,原子の大きさは物理的な意味を持ちません.

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次に説明する空間充填モデルと比べると結合などの内部構造が見やすいため,分子の構造を把握しやすいという利点があります.

空間充填モデル(CPK)

空間充填モデルは原子半径の相対サイズを反映した球で原子を表現します.球面は原子のファンデルワールス半径に基づいて決められているため,分子の大きさや原子の位置関係を直感的に把握しやすいという特長があります.また空間充填モデルはその定義からファンデルワールス表面と一致します.

空間充填モデルは分子の大きさを理解しやすい一方で,分子内部の原子,結合,結合角などは埋もれてしまってほとんど見ることができません.この欠点については,例えばファンデルワールス表面を半透明で表示してあげることで解決することが可能です.下の例では棒モデルとファンデルワールス平面を重ねて表示しています.

なお,CPKモデルとも呼ばれるのはCorey,Pauling,及びKoltunによって考案されたことによります.

マンガモデル(cartoon)

分子モデルの目的は分子の3次元構造を理解することにあると述べてきました.ところで原子数が何百・何千とあるようなタンパク質のなどの巨大分子では,これまで見てきたような表現方法では細部が強調されすぎるために,本質的な3次元構造を理解しにくくなってしまいます.そこで用いられるのがマンガモデルになります.

このモデルでは,構造の細かい情報を表現せずにタンパク質の2次構造に集中して,マンガ風に表現することで,3次元構造を理解しようとします.一般的にはαーヘリックスをらせん状のリボンまたは円柱で表現し,βーシートを矢印または単に長方形型のシートで表現します.

下に1つ例を示します.左の棒モデルではゴチャゴチャしていて構造を把握するのが困難です.右のマンガモデルでは2次構造に特化して表示しているため,構造的特徴を理解しやすくなっています.

もちろん,さらにファンデルワールス表面と合わせることで全体の大きさを把握しながら,2次構造を眺めることも可能です.

Cartoon 02

終わりに

今回は分子の3次元構造を理解するために用いる分子モデルについて概説しました.基礎的な内容ではありますが,各モデルの特長を踏まえて使い分けることが大切だと思います.

各モデルについて理解を深めたら,次のステップはソフトを用いて実際に描画していくのがよいです.pythonを使って3次元構造を自由に表示できるようにしていきましょう.

>>次の記事:「py3Dmolを使って化学構造をJupyter上で美しく表示する

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